北岳
山行記録  [ back ]

フリガナ ミナミアルプス キタダケ 
山域・山名 南アルプス 北岳 3192.4m 
日   時 1996年(平成8年)7月13日 土曜日 から 14日 日曜日 
天   候  
行   程 広河原ロッジ(5:35)−大樺沢二股(8:00)−雪渓終わり(9:12-30)−八本歯コル(10:25)−釣り尾根分岐(11:27)−北岳山頂(11:57-12:18)−吊り尾根分岐(12:33)−八本歯コル(12:59-13:07)−水場−雪渓下り始め(13:50)−雪渓下り終わり(14:47)−広河原(16:27) 
所 在 地 山梨県中巨摩郡芦安村 
2.5万図 仙丈ヶ岳 
緯   度 35.4017 
経   度 138.1431 
備   考  


7月13日(土)

 南アルプスは山梨、長野、静岡の三県にまたがり、東西40−70キロ、南北120キロメートルにわたり、3000メートル超の山13座、2500メートル以上の峰73座を有する一大山岳地帯である。(日地出版南アルプス北部より抜粋)

 今回の山行はこの中で白峰三山の一つ日本第二位の高峰北岳である。

大樺沢の雪渓と北岳

 土曜日の午後、台風5号が通過して梅雨が明けてしまったのかと思わせるような快晴の中広河原を目指して出発。
 芦安から先は南アルプス林道と呼ばれる林道で夜叉神峠から先は道幅もせまく、車のすれちがいに苦労する。
 トンネルも先入車優先で電灯もなく、上から水がバシャバシャ滴り落ちている状態である。
 道路の下を見るとまさに断崖絶壁、落っこちたら間違いなく「ハイソレマーデエヨ」である。
 途中可成りの工事関係車両とすれ違う。ロッジで聞いた話だと今月末に高校総体があり、山岳部門が広河原を中心に行われるため道路をなおしているとのこと。この車両とのすれ違いに苦労しながら広河原へ到着。

 さすが南アルプスの上高地と宣伝するだけのことはある。周りを山に囲まれて木々が生い茂り、野呂川が豊富な水量をたたえながら流れている。
 広河原には多くの車が駐車してあり、可成り人が入り込んでいるものと思われる。
 我々は野呂川を渡り道路脇に1台駐車出来るスペースがあったのでそこへ車を止める。

 今日の宿泊地広河原ロッジは山梨交通経営の国民宿舎である。到着時間が遅かったので早速風呂に入り、夕食に出掛けた。
 食事はセルフサービス形式で、食事の内容も料金の割には(1泊2食6480円)結構なものだ。
 席にはあらかじめ部屋番号が指定されており、224号の所に行くと、明日の朝早く出発するので朝食と昼食のおにぎりがすでに用意されていた。

北岳バットレス

 夕食が終わって他の3人は散歩に行くと浴衣姿で出掛けていった。私は一人で部屋へ戻りテレビを見ることにする。テレビを見ると言ってもNHK総合とNHK教育の2チャンネルしか映らず、あまりおもしろくないので受付で貰って来たパンフレットを眺めていると散歩に出掛けていた3人が戻ってきて大樺沢の雪渓が見えたと言っていた。
 全員が揃って発砲スチロールで冷やして持ってきたビール4本と焼酎2本、大谷さん持参のワンカップ3本を全て飲み干して、明日は朝早く出発し3000メートル級の山へ登ることも忘れて大宴会へと発展、22時30分ようやく就寝。

7月14日(日)

 4時30分過ぎに起床、昨日の酒のせいか若干二日酔い気味。
 荷物を整理して車に積み込み、ザックを背負って北岳目指して吊り橋を渡り、広河原山荘の横の登山道を登っていく。
 沢筋の道でとろこどころ水が流れており、その上を黙々と登っていく。
 30分位登った所で朝食をとる。昨日に引き続き今日も本当に梅雨が明けたのではないかと思われる位の快晴である。この時期にこれだけ天気に恵まれるのはそうは無いことである。
 天気はいいが二日酔いで気持ちが悪い。朝食もなんだか食べる気がしない。こんな調子で山頂まで行けるのだろうか。

大樺沢の雪渓

 朝食をとりおわって再び大樺沢を登り始め、右側崩落地帯を左側にまわりこんで再び右側へ戻ったところが大樺沢二股である。
 ここから道は白根御池、お花畠を経て北岳へ登る道とそのまま大樺沢を直登して北岳へ登る道とに岐れる。我々は最短コースの直登ルートを登ることにする。

 今年は例年になく雪が多く大樺沢もかなりの雪渓が残っている。予想外の雪にアイゼンを付けて長い雪渓を歩き始めた。
 雪が解けてざらついている上に傾斜が急で可成りの労力を強いられる。唯一の慰めは青い空、振り返れば鳳凰三山、頭上にそりかえる北岳バットレス、それらの景色を息絶え絶えに眺めながら一歩一歩高度をかせぐ。高度を稼ぐに従って傾斜が急になり、私とすれ違った人が突然30m位滑落してヒャとさせられる場面もある。
 雪渓が終わってアイゼンをはずす時にはほとんどグロッキー状態となってしまう。

お花畑

 すこし長い休憩のあと気を取り直して八本歯のコル目指して登りはじめる。
 この道はかなりガレており、おまけに直登。見上げれば日本一標高の高い岩場高距600mの北岳バットレス。あの上までいくのかと考えただけでなんとなく気が滅入ってしまうくらいこの時点で疲れている。
 後ろを振り返ると大谷さんと杉本さんの姿は見えるが藤生さんの姿がみえない。「どうしたのか?」と杉本さんに聞くとリタイヤしたとのこと。危険な場所もないのでゆっくり登れるところまで登ってくるとのことで我々3人で頂上を目指すことになる。
 昨日夜遅くまで酒盛りに付き合わせてしまったのと予想以上に急な雪渓歩きがこたえたのかもしれない。

 登っても登っても八本歯のコルには着かず、次から次へと梯子が出てきて最後の方は登山靴の重さを感じる程で4段位の梯子でさえ這いずるように登らなければならないくらいきつい。いい加減頭に来るくらい梯子を登り切るとようやく八本歯のコルに到着。

相変わらず北岳バットレスはそびえたち容易に頂上までいけそうにない。しかしここまでくれば間ノ岳が目前にせまり高山植物も見られるようになる。

これが!キタダケソウ

 杉本さんが汲んできた雪渓の湧き水は冷たくてとても、旨く疲れた体に吸い込まれていくと全身が生き返るようだ。

 ここからさらにガレた道を息絶え絶えに登っていくと辺り一面のお花畑に到着。ロープが張り巡らされて中には入れないが、とても綺麗である。今まさに真っ盛りというところだろう。
 北岳の花は今頃が盛りなのだが、例年梅雨期のためこれだけの花と景色に恵まれたのは幸運と言わざるを得ない。苦労して登って来た甲斐があったと言うものだ。
 さて目的のキタダケソウはと言うと、この高山植物を撮影している人がいて、たまたま一輪だけ咲いていたキタダケソウを教えてもらって写真にとることができた。

 ここから先頂上まではあちらこちらに花が咲き乱れ苦しい登りも花を見ながら紛らわし広河原を出発して6時間30分、ようやく標高3192.4m北岳山頂に立つことが出来る。

 苦労して苦労して登ってきた日本第二位の高さをほこる北岳。前に千丈ケ岳、後ろに間ノ岳、遠くに山並みが並び、午後に近いせいもあって雲が湧きだして360度の大展望とはいかないが間ノ岳の斜面をかけ登りわき出る霧、肌に心地よい冷たい風、厳しい環境条件の中で可憐に綺麗な花を咲かせ風に揺れている高山植物、これらすべてのものが頂上に立ったときに五感を通して感じるなんとも言い難い気持ち。「来てよかった」この一言で今までの苦労は全て帳消しである。

山頂手前に可憐に咲く花達

 あまりゆっくりも出来ないので写真を撮り昼食を食べて下山する。咲き乱れる高山植物に別れを告げて高度を下げて八本歯のコルに戻ると藤生さんが待っていた。
 ここにザックをおいてお花畠まで行ってきたのだという。そこまでくれば頂上はもうすぐそこなので登ってくればよかったと思ったが、我々とはぐれるとまずいということで引き返して来たのだという。
 今日山小屋泊ならばどうということはないのだがなにせ日帰りであまり時間がなかったので残念でならなかった。

 八本歯からくだって杉本さんが先ほど水を汲んだという雪渓の解け出しているところで水筒に水をくみ顔を洗って休憩をとる。
 このチョロチョロ流れ出ている水はとてもつめたくて手などじっと付けておくことなどできない。まさに「南アルプスの天然水」である。
 この水が色々な沢から流れてくる水と合流し、野呂川となり早川、富士川へと流れ込んでいるのである。くせのない冷たい水は動植物にとってとっても貴重なものである。何年たってもいまのままであるように自然を大切にしたいものだ。

山頂から間岳方面を見たところ

 再び大樺沢の雪渓をアイゼンを付けて慎重にくだり、行きよりも雪がとけたせいか水が増えている沢を下って16時27分、出発より11時間、無事広河原に下山する。


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