白馬岳
山行記録  [ back ]

フリガナ シロウマダケ  
山域・山名 北アルプス 白馬岳 2932.2m
日   時 1997(平成9)年7月19日(土)〜21日(月) 
天   候  
行   程 7月19日
豊科IC
(16:43)−大町(17:13)−栂池高原 国民宿舎「かねだ」(18:10)
7月20日
「かねだ」(4:55) (タクシー) 猿倉(5:20-45)−白馬尻(6:50-7:20)−雪渓入口(7:35-43)−雪渓終り(9:15)−お花畑(10:40-1:10)−村営頂上小屋(11:38-12:00)−白馬山荘(12:20-13:00)−白馬岳(13:15-14:00)−白馬山荘(14:15)
7月21日
白馬山荘(4:05)−白馬岳(4:20)−三国境(5:00)−小蓮華岳(5:47)−船越ノ頭(6:42)−白馬大池(7:28)−白馬乗鞍岳(8:18)−天狗原(9:15)−登山口(10:10)栂池ロープウェイ・ゴンドラ−民宿「かねだ」(11:10)  
所 在 地 富山県下新川郡朝日町、長野県北安曇郡白馬村 
2.5万図 白馬岳 
緯   度 36.452 
経   度 137.4542 
備   考  


 後立山連峰に属する白馬岳は北アルプス最北部に位置し、日本三大雪渓の一つとして有名な白馬大雪渓や、可憐に咲き誇る高山植物の宝庫として、北アルプスで最も人気のある山として有名である。
 私にとっては今からちょうど5年前、3000m級の山として初めて登った山、そして山登りにのめり込むきっかけとなった思い出深い山でもある。

 今回は是非とも登ってみたいという藤生さんの願いを叶えるべく予定をたててみたが、シーズン最盛期には五千人近い人が押し寄せるものすごいところなので、山小屋の混雑を考えると躊躇せざるを得ないところがあった。
 5年前に登った時も、シーズンを過ぎていたにもかかわらず大変な混みようで、雨の中を登ったので衣類はびしょ濡れ、身動きは出来ない、寝られない、で大変な目に遭った思い出がある。あんな目に遭うくらいならやめた方がいいと、つい思ってしまうのである。

 とりあえず、電話で北アルプス総合案内所に電話を入れてみると、7人用個室(\28000)が一部屋空いていて、5人でも使わせてくれるとの事なので予約をいれる。
 個室料はちょっと高いとも思うが、あの混雑を避けて快適な山小屋泊が出来るのなら安いものかもしれない。あとは晴れてくれることを祈るのみである。

 出発当日、昼飯を食べながら「お昼のNHKニュース」を観ていたらなんと梅雨が明けたではないか! 昔から「梅雨明け十日」と言って、この十日間は雷も少なくもっとも天候が安定して絶好の登山日和となることが多い。
 普段から皆の行いがよいのか、今年の山行は全て天気に恵まれている。
  『最高の山登り』を願いつつ、総勢5名元気よく白馬目指して出発する。
 今回の山行は、比較的余裕を持った行動をとるため、栂池に1泊し、翌日タクシーにて猿倉まで入り、大雪渓経由で白馬山荘泊、翌日小蓮華岳・白馬大池・白馬乗鞍岳を経由して栂池へと戻る2泊3日の行程をたてた。

 比較的順調に本日の宿泊地、国民宿舎「かねだ」へ到着。先に風呂に入って夕食を食べに食堂へと向かう。ビールと日本酒をたのみ明日の登山の無事を祈り乾杯!
 ここの従業員のおばさん、素朴でいかにも人のいい信州人の代表みたいな人で、感じがいい。
 こういう宿はこのおばさんの人柄でもっているところが多分にあるように感じる。

 部屋に帰って明日の支度をして、コンビニで買ってきたワインを飲んで明日の登山に備えて22時30分就寝。

 登山当日、4時起床、前日買って置いたおにぎりとラーメンで朝食をとり、支度にとりかかる。4時50分前、予約しておいたタクシーが宿の前に到着。バタバタと支度をしてタクシーに乗り込んで猿倉へと向かう。

 樹林の中に建つ猿倉山荘の前でタクシーを降りると、既に多くの登山者が出発の準備をしている。
 トイレを済ませ、白馬岳目指し山荘手前の登山道へと入っていく。ほどなく工事用林道に出で、鑓温泉への登山道を左に見送ってなおも林道を進む。
 下を流れる川は、梅雨と雪解けの水が重なってかなりの勢いで流れだしている。その川の上をヘリコプターが大きな音を響かせながら山小屋へ荷揚げのために忙しく往復する姿が見える。
 大雪渓と共に白馬岳が見え始めると林道から山道にかわり、緑の大きな葉の上に白い花を一輪だけつけるキヌガサソウやエンレイソウが咲いている。本にはシラネアオイもあると載っていたが、まだ咲いていないようだ。

 この山道を抜けると「おつかれさん! ようこう大雪渓へ」と、書かれた大きな岩が見えて白馬尻へ到着。村営白馬尻荘、白馬尻小屋の2件の山小屋がありここでトイレ休憩。

白馬大雪渓

  ここから少し登山道を登るといよいよ大雪渓の始まりである。
 白馬尻から葱平まで約2キロに渡って雪渓の道が続き、1年中消えない。見上げると蟻の行列のように遥か彼方まで人の列がつながって見える。
 我々もここでアイゼンを付けて、大雪渓を登り始める。長く延びた行列の中を歩いて行くが、どうにも歩調が合わなくて疲れる。横にずれて抜かしながら行くがこれも又疲れる。
 吹き抜ける風は冷たく爽やかで、天然の冷蔵庫の中を歩いているようでとても気持ちがいい。
 大雪渓の中腹までくると、両側から音を立てて落石が続いている。登山道までは届かないが、かなりの石が雪渓まで転がり落ちて来ている。見ていて決して気持ちのいいものではない。
 途中1回の休憩をはさんで、かなりいいペースで大雪渓を登りきる。どうしたことか、今日の曽我さんいつにもまして快調の様子。大谷さん、藤生さんもここまでさほど疲れた様子は見受けられない。

 葱平でアイゼンをはずし、小休止。上の方で休んでいる人が、小石を落して下で休んでいる人にぶつかることが頻繁に起こる。上を見てもかなり大きな岩がごろごろしている。ここは休憩する場所としてはあまり適さないところのようだ。
 あとになって判ったことだが、この日家族4人で来ていた女性が、この付近で落石を頭に受けて即死する事故があった。
 夏休みの初日に、家族の目の前で悲惨な事故に遭って亡くなってしまうとは、なんともかわいそうなことだ。心からご冥福をお祈り致します。

白馬山荘前にて

 葱平からはしばらく岩のゴロゴロした急な坂を登っていく。このあたりまでくると、黄色い花がいっぱい咲いている。ウルップソウ、ハクサンフウロ、ハクサンイチゲ、シナノキンバイ、ミヤマオダマキ、ベニバナイチゴなどの花も咲いている。
 曽我さんは写真をパチパチ、藤生さんは自分の目でじっくり眺めながら、各自各々のペースで歩いている。大谷さんは一人ひょうひょうと先を登っていく。
 全員が集合したところで小雪渓をトラバース、アイゼンを付ける程のことはないが慎重に渡りおえて、お花畑の中へとやってくる。

 両側にロープが貼られた登山道を進んでいくが、花の最盛期にはシナノキンバイやミヤマキンポウゲが黄色い絨毯をひきつめたようになるそうだが、時期が早いせいか残念ながらあまり花は見られない。 
  稜線に村営頂上小屋が見えるあたりまで来て昼食にする。座ってパンを食べていると、突然霧がわいて来て、半袖姿では寒いくらいである。もうひとがんばりで村営頂上小屋なので休憩もそこそこに出発する。

 村営頂上小屋の近くには、まだ残雪が豊富に残っており、その残雪からパイプを通して水をくんでいるテント泊の人の姿がみられる。ジョッキ片手に冷えたビールを旨そうに飲んでいる人もいる。我々はこの上の白馬山荘泊まりなのでがまんがまん。
 この頂上小屋から白馬山荘にかけても結構色々な花が咲いている。ハクサンボウフウ、コイワカガミ、ミヤマシオガマ、エゾオヤマノエンドウ、ミヤマクワガタ、タカネヤハズハハコなど、雪解けと共に短い夏を待ちかねたように咲いている姿を見ていると、厳しい自然条件のもとで生きのびてきた生命の力強さを、この小さくて可憐な花から感じるのである。
 是非これからも生き続けていかれるように山に登る者として願わずにはいられない。

 白馬山荘に到着すると、すでに宿泊の受付が始まっている。
 本日は畳1枚に3人以上の混雑だそうで、個室を予約しておいてよかったなとつくづく思う。
 ここで本日の夕食の時間のチケットをもらい、明日は朝早いので、朝食を弁当にしてもらいたい旨を告げる。
 ちょうど我々のところから夕食が2回目の17時20分からになってしまった。受付が始まってまだ30分も経っていないのに、もう2回目とは驚きである。

夕焼けの中に浮かび上がる剣岳

 受付で料金を払い出てこようとしたとき、受付の女性に「お待ち下さい。鍵がございます」と言って鍵を渡されたその瞬間、受付をする為に並んでいる人々の熱い視線が私の背中を直撃。思わず体中が熱くなってしまった。

 小屋には14時以降でなければ入れないので、取り合えずザックを小屋の近くに置いて、山頂を往復することにした。
 山頂は多くの登山者で賑わっており、全員で素早く記念写真を撮ってしばらく座って山頂からの眺めを満喫する。

 山頂から降りてきて部屋へと入る。食堂の脇のガラス戸をあけ、客室と書いてある看板の階段を登ると、絨毯が敷かれている廊下にドアが並んでいる。
 我々は310号室なので鍵をあけて中に入ると、8畳の和室に押し入れ、ザック置き場、靴置き場があり、思っていた以上にすばらしい部屋である。
 畳1枚に3人以上で寝る人には申し訳ないほどの部屋である。この部屋ならば28000円は決して高くない。
 
 着替えを済ませ、自動販売機で買って来たビールを飲ん、皆で夕食の時間まで昼寝をする。
 17時20分を少し過ぎて食堂に行くとすでに2回目の夕食が始まっており、座る所がない。席があくのをしばらく待って夕食をすませる。
 食堂を出てくるときに外を見たが曇っていて何も見えない。しかたないのでこのまま部屋へと戻ってゴロゴロしていると、杉本さんが山がよく見えていると呼びに来る。曽我さんと大谷さんは留守番しているという。
 私と藤生さんは杉本さんと共に登山靴とカメラを持って慌てて外へ出てみると、沈みゆく夕日に赤く染まった空、雲海の上に剣岳から立山がくっきりとした姿をあらわしている。しばらくこの美しい景色を眺めながら日が沈むまで写真を撮ったりして外で過ごす。 

 日が沈んで、スカイプラザを覗いてみると満席の状態。とてもコーヒーなどゆっくり飲んでいられないと、あきらめて部屋に帰ると鍵が掛かっていてドアがあかない。
 さては留守番すると言っておきながら、やはり景色を眺めにいったなと、又外に2人を捜しに行く。

夜明け前

 2人を捜して部屋に戻る途中でどうやら明日の弁当が出来たらしい。杉本さんと2人で弁当を取りに受付へとやってくる。
 弁当をもらって部屋に帰り、明日の支度をしてトイレにいって寝ようと、下へ降りていくと、21時30分だというのにまだ夕食を待つ列が出来ていたのには驚きである。今日の夕食は5回戦だったようだ。
 
 登山2日目、朝3時起床。冷たくなった弁当をむりやり呑込み、トイレを済ませて出発する。まだ辺りは薄暗いがライトをつけるほどではない。
 白馬岳を越えた辺りで団体を追い越して三国境への途中で日の出を眺める。
 雲海がだんだん赤く染まり、太陽が顔を出した途端、遠くから「万歳三唱」が聞こえてきた。
 太陽が昇ると、山は朝の一番すばらしい景色を見せてくれる。明暗のコントラスト、朝日にかがやく残雪、今日の1日の始まりをしめすかのように荷揚げ用ヘリコプターの音が山にこだまする。
 
 日が高くなりはじめた頃、三国境を通過する。字のごとく新潟、富山、長野の県境が接していて、ここから朝日岳への道が分岐している。
 前方には鉢ケ岳、雪倉岳、朝日岳と朝日に照らされてゆったりとした山容を眺めることができる。
 花も這松の中にハクサンシャクナゲ、アオノツガザクラ、コバイケソウが咲いている。
 三国境の分岐を過ぎてしばらくいくと、これから我々が歩く縦走路が延々と続いて見えている。しばらく下って少し登った所が小蓮華岳だ。地蔵がまつられ、振り向くと大きく白馬三山(白馬岳、杓子岳、鑓ケ岳)、その間には遠く剣岳、立山が青空のもとに見渡せる。
 この辺りまできてようやく高山植物の女王「コマクサ」に出会うことが出来る。群生しているのではなく、一株大事に廻りを石で囲まれて咲いている姿を見ると、眺めて通る登山者のやさしい眼差しが目に浮かぶようである。這松の下に隠れるようにゴゼンタチバナも咲いていた。

 なおも先へ進むと、眼下に青々とした水をたたえる白馬大池がはっきりとみえてくる。この池は、風吹大池についで北アルプスで2番目に大きな湖だ。
 赤いペンキで塗られた大池山荘の横にはテントも張られている。山荘近くにはやはりロープが張られ、廻りには小さい紫色のお花畑が広がっている。イワギキョウ、ハクサンコザクラ、などが咲き乱れている。

 この大池を廻り混むと登山道は今までと一変して、岩が重なりあった様な道となる。
 よく見ると、安山岩のなかに火山岩のような岩が混じっている。もしかしたら火山が噴火して白馬大池が出来たのではないのだろうか。一度資料をみて調べてみる必要がありそうだ。
 この岩が重なり合って、歩きにくい登山道を登りきると大きなコンクリートで固めたケルンの場所に出た。

 ここが白馬乗鞍岳だ。岩が重なり合った台地の様なところで、この先はしばらくこの台地の上を進む。

 先頭を歩いていた杉本さんが突然「なんだ」と声を上げる。なんとハエの大群である。よくみると登山道の脇で「きじうち」した愚か者がおり、このおみやげにハエがたかっているではないか。よくもこんな人が通るようなところで出来たものだ、もう少し奥の這松の中ででもやってくれればいいものをなどと言っているうちにまたしても「何だ」との声。
 よくみると、なんと雷鳥である。しずかに写真機を持って近づくと逃げもせずにチョロチョロと動き回っている。こんなに近くで雷鳥を見られるなんて、なんて運がいいんでしょう。
 
 この先小雪渓を少し下り、相変わらず岩の重なり合った下りをロープにつかまったりしながら下ってくると天狗原へと出て来る。この天狗原は湿原になっており、木道が敷かれている。ワタスゲやコケモモが咲いており、ニッコウキスゲは見かけることが出来なかった。

 木道が終わり土の道となり、急な木の階段状の道をひたすらくだり気がつくと、観光客がいっぱい通る栂池ロープウェイから栂池自然園の道に合流する。

 ロープウェイとゴンドラを乗り継いで、「かねだ」へと戻り、すばやく身支度をして、来るときにチェックして来た温泉へいそぐ。
 この温泉、川のそばにあるのだがなんだか少し様子が変だ。
 ほったて小屋の様なものしか建っていない。受付の親父の手招きにすいよせられるように入ってしまったが、はやりほったて小屋の露天風呂だった。
 1人300円でちゃんとシャンプーとセッケンはおいてあったが、いかにもおそまつだ。まぁ温泉は豊富にジャンジャン出ていたので悪くはないが建物がねぇーて感じでしょうか。でも汗を流すとさっぱりして気持ちがいい。

白馬大池

 さっぱりしたらなんだが腹がへってきた。夜中の3時に朝食を食べてから、すでに9時間近く経っているのでむりもない。
 道路沿いの焼肉屋へ入って、和牛カルビ定食を食べる。

 2日間、天候に恵まれて、花の時期には少し早かったようだが、曽我さんにもらった資料によると23種類の花を見ることが出来た。
 白馬岳は、景色といい、花といい、訪れる者が心惹かれる、すばらしい山である。  


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