今年の夏はちょっと長めの休みをもらい、テント担いで南アルプス縦走の山旅に出掛ける事にした。
水まで入れれば32キロのザックを背中に背負ってはたしてちゃんと歩けるのだろうか?
この日の為に予定を立ててトレーニングに励み、少しでもお金を節約するために自分で昼食を作って持参するなど涙ぐましい努力を自分なりにコツコツと重ねて来た。
思い返せば新聞のコラム欄に掲載された南アルプス縦走の記事に背中を押され、あれ以来自分の中に朧気ながら南アルプス縦走の夢が漠然とした形として存在していた。
今まで8泊9日という長期の休暇は取れた試しが無い。
しかし今年の夏休み周辺のカレンダーを眺めてみると何となくだが日程的には10日間の休みが取れそうである。
南アルプス行きを何となく計画したのが5月の連休過ぎ、それから3ヶ月、ネットで情報を集めたり地図を買って眺めたりと出発までの3ヶ月間はとても愉しい期間であった。
ようやく夏休みの予定が決まったのが7月に入ってから、8月11日から20日まで10日間の休みを申請し南アルプス行きが決定したのである。
各装備を揃え10日分の食糧を用意して準備万端いざ南アルプス縦走の山旅へ!
8月10日(木)
仕事を終えて大きなザックを背負って富士駅に向かう。17時40分発特急富士川号でこれから甲府に向かうのだ。
何せザックが大きい為に他の人の邪魔になってはいけないと遠慮がちに最後に列車に乗り込むと運良く一番後ろの席が空いていたので壁と座席の間にザックを押し込んで席に座わる事が出来た。
特急とは言っても3両編成でとてもローカルな感じ。身延線に乗るのは初めてで、約2時間で甲府駅に到着する。
甲府駅に降りるのも初めてだったが結構立派な建物である。軍配を持った武田信玄の銅像があった。
今日はビジネスホテルの予約を取ってあるので駅前のホテル「フジオ」にチェックイン。明日は夜中に出るので素泊まり4,500円を支払って部屋に入る。
一旦荷物を置いて近くのコンビニに夕食とつまみと酒を買いに出掛けた。戻ってシャワーを浴びてビールを呑みながらテレビを付けて何となくチャンネルを変えていたら何と!アダルトチャンネルが・・・しかも無料・・も〜明日早いのに〜・・・観たいけど・・・欲望を抑え酒を飲んで早々と布団に入った。
8月11日(金)
午前2時30分起床、身支度を調えて3時過ぎにホテルを出て駅前のバスターミナルへと向かう。
すでに人が集まっていて係員に「こっちこっち」と声をかけられて順序良く並べてあるザックの最後尾にザックをおろした。
何でもこのザックを数えてバスを何台出すか決めるそうで、全員必ず座っていけるのだそうだ。
周囲はまだ真っ暗な中、この係員から現在奈良田方面は崖崩れの為に奈良田〜広河原間、バスが不通となっている事、従って白峰三山(農鳥岳方面)を越えて下山する人は林道を19キロ歩いて奈良田のバス停まで行かなくてはいけないと注意事項の説明があった。
午前4時前にバスが入って来た。甲府から出るバスは計3台、私は2台目の最後から3人目だったのだが座席が2つしか空いていない。私の後ろの2人連れの女性が3台目に移ったのでラッキーな事に2人用の座席に1人でゆったりと座って行く事が出来た。
しかしあまりに大きなザックの為にバスの出入り口に引っかかってうまくのせられない。乗り降りだけで一苦労だ。
広河原までは約2時間、途中芦安と夜叉神峠に停車してトイレ休憩、今日は芦安からのバスが1台と甲府からのバスが3台の計4台で少ないそうだ。先週は12台出たらしい。
夜叉神峠のゲートは5時30分にならないと開かないのでタクシーで行ってもバスで行っても時間的にはさほど変わらない。バスもタクシーも順序良く並んでゲートが開くのを待っている。
今日は天気が良くてバスの中で車掌が「あそこに見えるのが間ノ岳と農鳥岳です」と説明してくれるが皆深々と帽子をかぶって睡眠の真っ最中であった。
午前6時過ぎ予定通り広河原に到着。実に10年振りの再訪である。当時は自家用車で広河原まで入れたのだが残念ながら今は入る事が出来ない。
四苦八苦してバスからザックをおろし、トイレをすませ、重たいザックを背負って北岳に向かって大きな期待とちょっぴり不安な気持ちで出発する。
同じバスで来た人の内半分くらいは北沢峠行きのバス乗り場に並んでいる。その横をゲートに向かってやや戻るように登って行くと右側にアルペンプラザがあり登山計画書をポストに入れてゲートを抜けた。
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ゲートを抜けるといよいよ北岳に向けて出発だ |
ゲートを抜けて少し行くと野呂川に吊り橋が架かっている。この吊り橋を渡って対岸に向かうと広河原山荘が建っている。重たい荷物がどうも背中にしっくり来ないのでここでザックをおろして再調整をした。
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左:吊り橋から見た北岳バットレスと大樺沢の雪渓 右:野呂川に架る吊橋 |
広河原山荘の横から登山道を登って行くと白根御池小屋への分岐がある。そのまま通過して大樺沢ルートを進む。
川に沿って樹林の中を通過して行く。
二股までは沢筋を行くが水量は豊富である。最初は右岸を行くが途中で左岸に移り又右岸へと移る。
荷物は重たいが今の所調子が良く順調に高度を上げて行く。今日は本当に天気が良く青空が素晴らしい。
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左:広河原山荘横の登山道 右:大樺沢を流れる沢水 |
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二股まではもう少し |
二股に到着。トイレが設置されている。ここから登山道は右俣コースと八本歯コースに分かれている。
北岳肩の小屋に泊まるのであれば右俣コース、北岳山荘に泊まるなら八本歯コースの方が近い。
但し八本歯コースはかなりの急登と木製階段の連続である。
私は北岳山荘泊まりなので荷物は重たいが覚悟を決めて雪渓を横切って八本歯コースを行く事にした。
高度が上がるに従って北岳バットレスも良く見えるようになって来た。
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二股に咲く花 |
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北岳バットレス |
重たい荷物が肩に食い込み、急登をハーハーヒーヒー言いながらうつむいてただひたすら足を前へ前へともくもくと動かすのだが、3〜4歩行っては立ち止まってフゥ〜と大きく息をついて又歩き出す事を繰り返す。二股までの調子はどこへ言ってしまったのか。とにかくキツイ登りに息絶え絶え状態であった。
二股の標高が2220m、八本歯のコルが2870m、標高差650m、しかも猛烈な登りと高い標高、コースタイム2時間と書いてあるがとてもそのタイムでは登れない。結局2時間40分かかってしまった。
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時々立ち止まって振り返ると鳳凰三山と八ヶ岳が見えた |
ようやく八本歯まで来たら今度は木製のハシゴの連続である。手足をフルに使って一段一段這うようにして上へ上へと這い上がる。
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八本歯にかかる木製のハシゴ |
口から心臓が飛び出しそうになった頃ようやく八本歯のコルに到着。今日宿泊予定の北岳山荘が見える。
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八本歯のコルから見た間ノ岳と北岳山荘 |
八本歯のコルから更に進むと分岐がある。ここから北岳山頂と北岳山荘への道が分岐している。
ここに荷物をデポして山頂を往復する事にした。
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北岳山頂と北岳山荘への分岐 |
ガレ場の急登だが荷物が無いとこんなに楽なのかと思うほど快調に山頂へと向かう。登山道脇には綺麗な花々が咲いている。
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シコタンソウ |
チシマギキョウ |
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イブキジャコウソウ |
イワオウギ |
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シコタンソウ |
チシマギキョウ |
登山道を登り切ると稜線に出る。ここからまっすぐに北岳山荘へ下る登山道もある。
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北岳山頂にて |
ようやく北岳山頂に到着した。10年ぶりに立った山頂は当たり前だが当時と何ら変わらない。強いて言えば山頂の標識の標高が当時は3192.4mと書かれていたのが今は3193mと書き換えられているくらいか。
霧が立ち上り湧いては消える事を繰り返し、一瞬の内に富士山が見えたり隠れたりしている。天気は良く鳳凰三山、甲斐駒ヶ岳、仙丈ヶ岳、明日登る間ノ岳が良く見える。
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鳳凰三山 オベリスクが見える |
山頂から苦労して登って来た大樺沢を見下ろす |
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山頂からみた甲斐駒ヶ岳 |
北岳山頂を満喫したので荷物をデポしてある場所まで一旦下る。ここから北岳山荘へと向かう。
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北岳山荘への巻道。時々木製のハシゴを行く |
広河原を出発して8時間20分、1日目の行程を無事終了し北岳山荘に到着した。
受付でテントサイト料500円を支払いテントを設営した。
今日は私と同じようなペースで追いつ追われつしながら来た2人組がいる。テント場が隣同士だったので話をしたが会社が同じで一人は広島出身で現在単身赴任で茨城に住んでいてもう一人は千葉在住との事であった。
広河原から三伏峠まで3泊4日の行程との事でこの後も彼らが先行して休憩している間に私が追いつくようなペースで三伏峠まで行く事になる。
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北岳山荘から北岳を望む |
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テントサイトから見た北岳山荘 |
夕焼けの入道雲 |
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立派なバイオトイレ |
北岳山荘から見た夕暮れの富士山 |
テントの設営を終えて小屋に水を分けてもらいに行く。
北岳山荘は稜線上に建っている為に沢の水が無い。沢まで往復2時間以上かかっていては洒落にならないので小屋で1リットル100円で分けてもらう。
水を汲んでいると旨そうに生ビールを呑んでいる登山者がいた。
今日は標高3000m以上のところまで30キロの荷物を無事に担ぎあげたのでご褒美にと私も900円出して生ビールを注文し、一気に疲れた体に流し込んだ。喉がヒリヒリするくらい冷えたビールは旨かったが飲み干した瞬間に何とめまいが・・・・それだけ今日はハードな1日だったと言う事だろう。
水を酌んでテントに戻り夕食を済ませてシュラフに入って暫くすると下の方で雷が鳴りだした。ピカピカと絶え間なく光り続け花火のようだ。雷は結局明け方まで続いてしまう。
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広河原〜北岳山荘までの断面図 クリックで拡大します |
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広河原〜北岳山荘 立体登山道 クリックで拡大します |
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